質問箱「能の泉」第10回

能の泉

能面の意味を教えて下さい。

太古に興った呪術の面が、我が国のみ洗練に洗練を重ね、能面に姿を変えて今日に伝わりました。

能草創期には面(おもて)の種類も少なかったようですが、室町以降曲柄に応じ年齢、性格、品位の異なる種々の面が創作改作され、人気スタイルは他の作家達にも取り上げられて各流に行き渡りました。そして江戸初期までには流儀毎の使用面がほぼ確立し、それ以降は家元秘蔵のオリジナル面(本面)のコピー(写し)が作られるようになりました。面は流用が原則なので、約二百曲の能に対し基本的には六、七十面もあれば足りると言われます。

ちなみに女物(鬘物)の主役(シテ)には、金春と喜多が初々しい小面、観世が成熟の若女、宝生が気高さの節木増、金剛がオモカゲ写しの孫次郎を主に用います。同じ名称の面でも作柄は微妙に異なり、特に山姥、景清、猩々など一曲限りの専用面は流儀間で相当違います。

各流儀は各々本面の性格を生かした演技演出を流是流風としました。但し替えの面を用いる時にはそれに合った演技演出に変わります。

性格の見方として、四角にあけた目が丸くなる程、また左右が寄る程強くなり、金泥や金属が入ると霊的超自然的になります。盲目の目は全部くり抜かれてよく見えます。半開きの口にも口角の上がった微笑タイプとへの字のタイプがあります。下の歯が見え、牙が出、舌が見えと口の開けようでも性格は変わります。また口を堅く結ぶと内に込められた力を表します。女面の前髪(毛書き)の交錯は人生経験を表し、小面は三本とも平行線です。

演者は演能に先だって面と対峙します。これを面の位を取ると言います。即ち能は面が演出基準であり、面が演出家なのです。なお、子方と現実世界の普通の男役は、直面(ひためん)と称して素顔で表情を変えずに演じます。

(副会長 宝生流 村上良信)

タイトルとURLをコピーしました