質問箱「能の泉」第8回

能の泉

能とオペラは歌う劇という点で似通っていますが、配役の仕方に違いはありますか?

大いに御座います。
先ずオペラは男の役は男が演じ女の役は女が演じますが、能は男だけで演じる芸能として磨き抜かれて来たものなので、原則男の役も女の役もすべて男が演じます(女性能役者の催しは女流能と称されて、男性のそれとは一線を画されています)。

又、オペラの役者は声の高さ(声域)によって男はテノール、バリトン、バス、女はソプラノ、メゾソプラノ、アルトに分類され、作曲者の指定する声域の役しか歌いません。しかも声の質によって向き不向きも有る程度決まっていて、向いた役の中からレパートリーを選ぶのが普通です。

それに対して能の世界では、キー(調子)の選択は演者に任されており、声の高さや声の質で役を選ぶということはありません。つまり能役者は、老若男女はもとより、どのような性格の役でもこなすことが要求されるのです。

又能の役者は、シテ方(シテやツレや子方)、ワキ方(ワキやワキヅレ)、狂言方(アイ)の三つのグループに分類され、能作者があらかじめ指定した役をそれぞれのグループが分担することになっており、互いの領分を侵すことは許されません。そしてこの三つのグループは、それぞれシテ方は五流、ワキ方は三流、狂言方は二流と芸風の異なる流儀に分かれており、人手不足や異流共演など特殊な事情のない限り一つのグループは必ず一つの流儀だけで勤める慣わしになっています。

更に能に特異なのは子方の存在で、子供の役にとどまらず、配役のバランス上大人の役を子方が演じることもあります。

因みにこれらの役割分担の垣根をすべて取り払い、囃子方も含めてやりたい役を自由に選んで(或いは押しつけられて)にわか仕込みの能を演じることがあります。一種のお祭り騒ぎで、これを乱能といいます。

(副会長 宝生流 村上良信)

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